
技術情報
2025.08.15
知らないうちに製品不良を引き起こす“静かな脅威”
製造現場で見えない不良の原因が何なのか…。
「なぜかホコリが付きやすい」「突然印刷にムラが出る」「粉体がこぼれる」
そんな“なんとなくの不具合”の多くには、実は静電気が関係しています。
今回は、製造業における「静電気と異物のトラブル」について、事例や対策を交えて解説します。
“クーロン力”から始まる異物付着
物体が摩擦などで帯電すると、周囲の微粒子(ホコリや粉体)を電気的な力で引き寄せてしまう現象が起こります。これが、製造工程における「異物付着」の要因のひとつ。
例えば、乾いたフィルムが自動搬送される工程で静電気が発生し、そのフィルムに空気中のホコリが吸い寄せられて貼り付いてしまうことがあります。このとき、目に見えない帯電でも、周囲を漂う異物を引き寄せる力を持っています。
帯電の発生は避けられない?
実は、ほとんどの製造工程には帯電のリスクが潜んでいます。たとえば以下のような状況です。
・紙、フィルム、プラスチックを高速で搬送する
・作業者が床を歩いたときの摩擦
・ドライエアによる風送、乾燥
・印刷、ラベリングの高速処理
これらはいずれも帯電を引き起こしやすく、結果的に異物を“吸い寄せる磁石”になってしまうのです。
印刷業界:インクがはじかれたり、ホコリが混入したり
静電気は、紙やフィルムにインクが正しく定着するのを妨げます。特にデジタル印刷やラベル加工では、帯電によってインクが吹き飛ばされたり、埃がノズルに詰まったりといった不具合が頻発。
さらに、素材の搬送時にホコリを帯電で吸着してしまうと、そのまま印刷面に異物が入り込んでしまい、不良品やクレームの原因になってしまいます。
プラスチック成形:成形品に微粉末が吸着
プラスチックやゴムなどの成形品は、冷却・取り出しの工程で静電気がたまりやすく、粉体やチリが表面に吸着することが多いです。
これが後工程で塗装不良や接着不良の原因となり、製品の外観・品質に大きく影響します。製品表面の異物混入は、目視検査をすり抜けたあと、クレームや返品につながる重大な問題です。
医療・電子部品:目に見えない異物が大問題に
医療機器や電子部品の製造では、数ミクロン単位の異物が製品の性能や安全性に直結します。たとえば、以下のような状況です。
・精密基板にホコリが付着 → 回路不良
・医療用樹脂チューブに埃が混入 → 体内に入り健康リスク
このような領域では、たとえ静電気の影響がわずかであっても、除去対策を怠ることは許されません。
食品・包装:見た目だけじゃない、封止不良にも
食品の包装工程では、静電気によってチリや粉体がパッケージに吸着することがあります。これが密封性の低下や印字のにじみを引き起こし、賞味期限の印字不良や異物混入のリスクへとつながるのです。
包装素材が帯電すると、包装フィルム同士がくっついてしまい、自動供給の妨げにもなります。製造効率にも大きく影響するポイントです。
では、こうした静電気による異物トラブルを防ぐために、どんな対策が有効なのでしょうか?
除電装置(イオナイザー)の活用
もっとも代表的な対策は「イオン」を使って静電気を中和する装置です。除電バーやノズル式などさまざまなタイプがあります。
・除電バー:搬送ラインやフィルム工程に
・ノズル式:ピンポイントで静電気を除去したいとき
これらの装置は、定期的な清掃と適切な設置位置が効果のカギとなります。
湿度管理で静電気を防ぐ
乾燥した環境では、物体が帯電しやすくなります。特に冬場やエアコンで乾燥した室内では静電気が蓄積しやすいため、工場の湿度を50%前後に保つことが効果的です。
接地と導電性素材の活用
作業台や機械設備などを正しく接地(アース)することで、静電気を安全に逃がすことができます。
さらに、導電性の床材やマット、静電防止素材のユニフォームを使うことで、作業中の帯電を抑制できます。
モニタリングで“見える化”する
最近では、除電装置にセンサーやIoT技術を搭載して、帯電状況をリアルタイムに監視・ログ化するシステムも登場しています。
・帯電量がしきい値を超えたらアラート
・除電バーの汚れや劣化を通知
・生産ラインの除電効果を数値化
こうした「見える化」が、未然防止と保守効率の向上につながります。
実は、静電気は制御すれば積極的に利用できる技術にもなります。
たとえば…
・静電塗装:微細な塗料を静電力で吸着し、塗布ムラを防止
・静電ラベル固定:インモールドラベルを型に吸着させる工程
・粉体成形:粉体を帯電させて均一に配置
・プリンティング:帯電させた紙にトナーを吸着させる印刷技術
つまり、“使いこなせば味方になる”のが静電気という存在なのです。
静電気と異物の問題は、目に見えづらいからこそ「気づかないうちに製品不良につながっていた」というケースが非常に多いものです。
異物不良でお困りの方は、「静電気」という視点でも工程を見直してみてください。
その気づきが、不良率の改善につながるかもしれません。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―