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油中水分の問題

潤滑・作動油に混入する水分は、主に「溶解水」「分散(乳化)水」「遊離水」という三つの形態で存在し、特に後二者は機械損傷リスクを急激に高めると報告されています。

わずか数%未満の水分でも潤滑膜の形成を阻害し、摩耗・腐食・油劣化を連鎖的に進行させます。例えば、油膜が必要なすべり軸受や転がり軸受では、微量の水分でも油膜破断→直接接触→早期故障の順で被害が拡大し、機械寿命の大幅短縮につながります。

目次

  1. 油中水分の形態と挙動
  2. 影響メカニズム
  3. 試験・オンライン監視手段
  4. 混入経路と未然防止
  5. 除去技術の選定
  6. まとめ

1. 油中水分の形態と挙動

溶解水: 油に“見えない状態”で溶け込みます。温度上昇や油種の違いで許容溶解量(飽和点)が変動しますが、鉱物系油の飽和値は温度依存性が大きく、例えば20 °Cで約0.02 wt%程度、40 °Cで約0.06 wt%とされる例もあります。

分散(乳化)水: 界面活性成分やせん断で水滴が微細に分散した状態です。軸受・ギヤで油膜破断を起こしやすいとされます。

遊離水: タンク底部や低流速部に相分離した水分です。腐食や微生物増殖、キャビテーション誘発の温床となります。

なお、エステル系など一部の合成油は水分溶解度が鉱物油より桁違いに高いことが知られ、同じppmでも「相対飽和度」が異なります。天然エステルでは鉱物油の約20倍の水分を溶かす場合があるとする研究例があります。

2. 影響メカニズム

潤滑膜破断・早期摩耗: 水は油より圧縮性が低く、油膜支持力を下げるため、混入率が小さくても軸受寿命が急減することがあります。

腐食・ピッティング・マイクロピッチング: 水由来の腐食生成物が表面を荒らしEHL条件を崩します。転がり疲労や微小ピットを促進します。

酸化促進と添加剤枯渇: 水分は酸化反応を促し、酸化防止剤などの消耗を加速します。逆ミセル形成による添加剤の取り込み・分離(“添加剤の持ち去り”)が提議されています。

粘度・空気離れ・消泡性の悪化: 乳化状態は流体特性を乱し、油圧応答やベアリングの冷却・潤滑に悪影響を及ぼします。

キャビテーション・騒音・振動の増加: 分散水滴が圧力変動で相変化し、表面損傷を誘発します。

電気機器・絶縁領域のリスク: 高水分は絶縁低下や加水分解を通じて故障モードを誘発します(エステル系は高溶解度ゆえに管理指標が異なります)。

3. 試験・オンライン監視手段

クラックル試験: 現場/スクリーニングに有用です。ただし検出下限はおおむね数百ppmオーダーで、油種・状態により感度が変動し、低含水の定量には不向きです。より精密な定量の判断ゲートとして用いるのが適切です。

カールフィッシャー(KF)滴定: ASTM D6304準拠で、mg/kg(ppm)レベルから%まで定量可能です。低粘度直注の手順、干渉に配慮した溶媒抽出、加熱気化導入など、試料特性に応じた手順が規定されています。

FTIR: 水のO–H帯で検知できますが、感度はKFに劣り、概ね0.1%(1000 ppm)以上での検出が一般的です。

オンラインセンサー: 油種・経時の影響を受けにくく、トレンド監視に適します。潤滑・作動油の飽和点は温度で大きく変化し、運転時の温度上昇で一時的に溶解できても、停止・冷却で飽和度が上がり、夜間や季節要因で自由水が析出しやすくなるため、温度計測と組み合わせるのが実務上の要点です。

4. 混入経路と未然防止

水分は、吸気・ブリーザからの湿気取り込み、冷却器や熱交換器からの漏れ、高圧洗浄や結露、補給油・容器由来、燃焼生成水や反応副産物など多彩な経路で混入します。

対策としては、除湿剤付きブリーザの装着、シール・パッキンの健全性確保、結露しやすい運転停止サイクルの見直し、補給油・保管容器の乾燥管理、タンク底ドレンの定期抜きなどが効果的です。

5. 除去技術の選定

真空脱水: 溶解・乳化・遊離の三態水を高効率に除去し、気体や軽質分も同時に低減可能です。適用範囲が広く、50 ppm未満まで引き下げた実例も報告されています(高粘度油やタービン油、油圧油等で実績が多いとされます)。

コアレッサ/重力・静置: 遊離水・粗大水滴の分離に有効です。界面活性や高せん断で乳化が強い場合は効率が低下します。

遠心分離: 密度差を活用して遊離水・粒子を短時間で分離します。高含水の一次処置に向いています。

膜・吸着・乾燥剤循環: 低負荷で連続的に水分を低減します。管理は容易ですが、溶解水の深い領域での“追い込み”は真空方式に劣る場合があります。

6. まとめ

油中水分は、潤滑機能の根本(油膜・添加剤・表面化学)に同時多発的なダメージを与える重要な管理対象のひとつです。

侵入防止(除湿・密封・結露抑制)、早期検知(温度連動のトレンド監視+KF確認)、迅速除去(真空脱水などの選択)の三本柱で油中水分のライフサイクル全体を制御することが、機械の寿命延伸と故障回避に直結します。 当社では、流体監視・汚染制御の領域における35年以上の経験をもとに、顧客企業の潤滑管理に専門性の高いサポートを提供しています。流体機械の製造や設備保全などで、潤滑管理のお悩み事がございましたら、お気兼ねなくご相談下さい。

高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―

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