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潤滑油のワニス問題

産業機械や発電設備における潤滑油は、単なる潤滑機能にとどまらず、冷却や防錆、摩耗防止といった多面的な役割を担っています。近年、こうした潤滑油に起因するトラブルの中でも「ワニス(Varnish)」と呼ばれる微細な酸化副生成物の堆積が、設備信頼性に大きな影響を与える問題として注目されています。

本稿では、潤滑油中におけるワニスの発生メカニズム、影響、評価手法、そして管理・対策の基本的な考え方について概説します。

目次

  1. ワニスとは何か
  2. ワニス形成のメカニズム
  3. 金属摩耗が与える影響
  4. 水分混入が与える影響
  5. ワニス形成を抑える予防策
  6. 発生後の対処法
  7. ワニスの監視と診断
  8. 実務的な対策手順
  9. まとめ

1. ワニスとは何か

ワニスは潤滑油の劣化によって形成される薄い固形堆積物であり、機械内部の金属表面に付着して運転不良や故障を引き起こす要因です。特にタービン油や油圧作動油の分野で深刻な問題となっています。ワニスは単なる汚れではなく、油中で生成された酸化生成物や分解生成物が凝集し、最終的に不溶性の汚染物質として析出したものです。

発生したワニスは以下のような不具合を招きます。

  • バルブや制御機構の固着
  • 軸受温度の上昇や摩擦増大
  • ろ過装置の目詰まり
  • オイルの熱伝達性能低下

これらの影響はプラントや設備の信頼性低下につながり、場合によっては重大な停止事故にも発展します。

2. ワニス形成のメカニズム

潤滑油の劣化プロセスは大きく分けて以下の段階を経ます。

酸化開始:

油分子や添加剤が熱/酸素/せん断/金属触媒の影響で分解し、酸化物(アルデヒド、酸、ケトンなど)が生成される。

二次反応:

酸化生成物がさらに縮合/重合して分子量の大きい極性化合物となる。

溶解限界超過:

油中に溶解していたこれらの生成物が飽和濃度を超え、溶解度の低い条件下で微粒子化する。

析出/付着:

粒子が冷却部や低流速部に集まり、金属表面に薄膜状またはスラッジ状に堆積する。

この一連のプロセスがワニス形成と呼ばれています。

3. 金属摩耗が与える影響

潤滑系統内の金属摩耗によって発生する微細な粒子は、ワニス形成を大きく促進します。

触媒作用:

鉄や銅などの金属摩耗粉は酸化反応を加速させ、油の劣化を早めます。

核形成効果:

摩耗粒子は酸化生成物が凝集する“核”となり、ワニスへの成長や堆積を促進します。

このため、摩耗粉の発生は単なる摩耗の証拠にとどまらず、ワニス形成の加速因子と考えるべきです。

4. 水分混入が与える影響

潤滑油に水分が混入すると、次のような悪影響を及ぼします。

酸化促進:

水は化学反応を助長し、油の酸化を加速します。

粒子凝集:

水分が存在すると粒子同士が凝集しやすくなり、フィルタの性能低下や堆積促進につながります。

添加剤劣化:

一部の添加剤は水分により加水分解や乳化を起こし、性能を失うことがあります。

局所腐食:

水分は金属表面に腐食を生じさせ、さらなる摩耗粒子の発生につながります。

したがって、水分管理はワニス対策の優先課題となります。

5. ワニス形成を抑える予防策

油剤選定と管理:

酸化安定性の高い基油や添加剤を含む潤滑油を選ぶ。

可溶性生成物を分散させやすい配合を用いる。

発泡や空気巻き込みが少ない油を採用する。

運転条件の最適化:

油温を適正範囲に保ち、高温酸化や低温析出を防ぐ。

配管やリザーバ設計を改善し、空気巻き込みを最小化する。

機械的保全:

適切なろ過で粒子を低減し、摩耗を抑制する。

アライメント調整や部品交換で摩耗源を取り除く。

6. 発生後の対処法

ワニスが形成された場合は、除去技術を用いる必要があります。

可溶性ワニス除去:

油中に溶けている前駆体を特殊媒体で吸着除去し、析出を抑制する。

吸着材の利用:

極性吸着材やイオン交換樹脂で油中の酸化生成物を取り除く。

継続的清浄化システム:

循環ろ過や再生技術により、油を運転中に常時清浄化する。

粒子/摩耗粉除去:

高効率フィルタや磁性フィルタで不溶性粒子を取り除く。

脱水技術:

真空脱水器や遠心分離で水分を迅速に排出する。

静電気的除去法:

油中の極性分子を電場で凝集させる方法も一部実用化されている。

7. ワニスの監視と診断

早期発見のためには、以下の分析が有効です。

  • メンブレンパッチ色差法(MPC): 油中のワニス前駆体濃度を可視化する。
  • 酸価や酸化安定性試験: 酸化進行度や添加剤残量を評価する。
  • 金属元素分析(ICP): 金属摩耗粉の増加を把握し、触媒的影響を予測する。
  • 粒子カウント:清浄度を数値化し、堆積リスクを把握する。
  • 含水量測定:水分が増えていないかを監視する。

これらのデータを組み合わせることで、ワニス形成のリスクを事前に察知できます。

8. 実務的な対策手順

  • 分析強化: MPC、含水率、ICP、粒子カウントを定期的に確認。
  • 水分管理: 冷却器/シール点検、脱水装置の導入。
  • 摩耗対策: 高効率フィルタ、磁性フィルタの設置、摩耗源の点検。
  • 油剤管理: 劣化兆候が見られたら早めに浄油/再生処理を行う。
  • 運転条件見直し: 温度管理と空気巻き込み防止を徹底。
  • 除去技術の併用: 可溶性成分除去と粒子除去を組み合わせる。

9. まとめ

潤滑油におけるワニスは、単なる老朽現象ではなく「酸化生成物の累積と不溶化」によって進行する化学/物理現象です。金属摩耗と水分混入はその重要な促進因子であり、摩耗粉の管理と水分の遮断/除去が効果的な抑制策となります。

発生を完全にゼロにすることは難しいものの、適切な油剤の選定と運転管理/摩耗抑制と水分管理/先進的な浄油技術の活用/適切な状態監視を組み合わせることで、ワニス形成を抑制し、設備の信頼性を大幅に高めることが可能です。 インテクノス・ジャパンは、オイル・コンタミネーションコントロールの分野において、国内外で30年以上にわたり、幾多の課題解決をお支えしてきた専門企業です。潤滑油の監視/制御にお困りの際は、是非一度、当社のご相談窓口(https://www.intechno.co.jp/contact/)からお声掛け下さい。経験豊富な専門員が、最適なソリューションを提案いたします。

高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―

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