技術情報
2025.11.14
上水・下水・産業排水処理において、凝集沈殿やろ過の安定運転は、水質を確保するとともに薬品コストを削減するうえで非常に重要です。従来、凝集剤注入量の調整は、運転員の経験や濁度・懸濁物質などのオフライン分析に依存しており、原水水質が急変する場合には、過剰注薬や処理水質悪化のリスクがありました。
流動電流計(Streaming Current Detector:SCD)は、水中の懸濁粒子・コロイドの電荷状態をオンラインで連続監視できる計器であり、凝集操作の定量化と自動制御の中核を担う装置として海外で多く活用され、国内でも注目されはじめています。
本技術の導入により、凝集剤使用量の最適化、プロセス全体の安定稼働が実現できる可能性があります。
測定原理
水中の微粒子やコロイドは表面電荷を持ち、その周囲に電気二重層を形成しています。この試料水を狭い絶縁流路内に流すと、流れのせん断によって二重層中のイオンが引きずられ、正負イオンの移動差に起因する流動電流が発生します。
流路内に配置した電極でこの微小電流を検出することにより、信号の符号から電荷の極性を、絶対値から電荷量のおおよその大小を推定することができます。
凝集剤を添加すると、粒子電荷が中和されていく過程が流動電流値の変化として現れ、最適な凝集状態を連続的に把握することが可能になります。
装置構成
典型的な流動電流計システムは、次のような構成要素から成り立っています。
これらを組み合わせることにより、オンライン信号を利用したフィードバック制御を実現することができます。
凝集剤注入量の自動制御
最も代表的な活用方法は、凝集剤注入量の自動制御です。まず、ある一定条件下で薬注量を段階的に変化させながら、流動電流値と濁度・懸濁物質などの処理水質との関係を把握し、最も良好な処理水質が得られるときの流動電流値をセットポイントとして設定します。
運転中は、このセットポイントからの偏差に応じて凝集剤注入量を自動的に増減させることで、原水水質が変動しても薬注の過不足を抑えつつ運転することができます。
とくに、水質変動が大きい河川表流水を原水とする浄水場においては、このような自動制御の効果が大きく現れやすいといえます。
多段薬品制御・排水処理への応用
無機凝集剤と高分子凝集剤を併用する多段薬品制御においては、無機凝集ゾーンに流動電流計を設置し、まず電荷中和状態を最適化したうえで、その後の高分子凝集についてはろ過差圧やフロック状態を指標として制御する構成をとる場合があります。
また、下水・産業排水処理プロセスに適用した場合には、一次沈殿や汚泥濃縮・脱水工程において、汚泥性状の変動に自動的に追従しやすくなり、脱水ケーキ含水率の安定化や凝集剤使用量の削減などの効果が期待できます。
セル汚れ・導電率・温度の影響
流動電流セル内にスケールやスライムが付着すると、流路形状や電極表面状態が変化し、測定ドリフトの原因となります。そのため、定期的な洗浄や適切な材質の選定が非常に重要です。(一部自動洗浄機能を搭載したタイプあり)
また、試料水の導電率や温度も測定感度やノイズに影響を与えるため、できるだけ仕様範囲内で使用することが望ましく、必要に応じて温度補償機能やサンプルラインの保温などの対策を講じることが有効です。
セットポイントの管理
最適な流動電流値(セットポイント)は、原水水質や使用薬品の種類、目標とする処理水質、プロセス条件などによって変化します。そのため、季節変動や薬品変更がある場合には、沈殿試験やろ過試験を行い、改めてセットポイントを見直すことが重要です。
さらに、運転データを継続的に蓄積し、流動電流値と処理水質との相関を定期的に評価することで、長期的な制御精度を維持しやすくなります。
流動電流計による凝集剤自動制御を導入すると、一般に薬品使用量が 10〜30%程度削減できたという報告もあり、薬品コストの低減に大きく寄与します。また、過凝集によるろ過障害やフロックの微細化を防ぐことで、ろ過洗浄水量や電力量の削減にもつながります。さらに、処理水質が安定することで、後段プロセス(膜処理や活性炭処理など)の負荷を軽減できる可能性もあります。
今後は、濁度・TOC・UV吸収など他のオンライン計測値との多変量解析や、AI・機械学習を用いた運転最適化技術と連携させることにより、より高度で効率的な自動運転が実現していくと考えられます。流動電流計は、水処理プロセスのスマート化を支える重要なセンシングデバイスとして、今後も適用範囲が拡大していくことが期待されます。
流動電流計は、コロイド電荷状態をオンラインで把握できる唯一の実用的計器の一つであり、水処理プロセスにおける凝集操作の定量化と自動化を実現するキーデバイスです。適切な設置位置の選定、サンプルライン設計、メンテナンス体制の整備、運転データに基づくセットポイント管理を行うことで、そのポテンシャルを最大限引き出すことが可能となります。
インテクノス・ジャパンは、先端の汚染制御技術や監視機材を、上下水道や工場排水処理分野にも活用いただくべく、普及に努めております。ご興味をお持ちいただけましたらお気軽にお問い合わせください。
PPSビジネスユニット 齋藤圭介


