技術情報
2026.10.02
本記事で紹介する研究は、Glasgow大学のW. Whyte氏と、Koos Agricola氏による共同執筆です。
Agricola氏は応用物理学者として、Océ Technologies(現Canon Production Printing)のR&D部門で長年コンタミネーションコントロールに携わる一方、ISOの外郭団体であるICCCS(International Confederation of Contamination Control Societies)のTechnical Committee(技術委員会)およびEducation Committee(教育委員会)で議長・書記を歴任してきた人物です。ISO/TC 209(クリーンルーム国際標準化委員会)においてもWG14のconvenor(主査)やWG4のsecretary(書記)を務め、ISO 14644シリーズの策定に直接関与。CTCB-I(国際クリーンルーム試験認証機構)の議長も務めています。こうした経歴を持つ人物による共同研究として、本記事は業界内でも高い信頼性を持つ知見と位置づけられます。
なお、本記事の執筆者自身も、ICCCSが運営する国際的な若手専門家育成プログラム「50 Young Professionals(50YP)」のアルムナイとして、コンタミネーションコントロール分野の国際的なネットワークに関わっています。
クリーンルームでは「大量の清浄空気を送り込めば、粒子はすべて排気される」と考えられがちです。しかし、Glasgow大学のW. Whyte氏とTechnology of Sense BV(オランダ)のK. Agricola氏は、稼働中のISO Class 8クリーンルームを対象とした調査結果として、空気中の粒子や微生物保有粒子(MCP: Microbe-Carrying Particles)の一定割合が、床・壁・作業台などの表面への「堆積」によって空気中から取り除かれていると報告しています(業界誌 Clean Air and Containment Review掲載)。
同論文では、粒子径ごとに「機械換気」と「表面堆積」のどちらがどれだけ寄与しているかが定量化されており、著者らは次のように結論づけています。
Whyte氏らは、これらの結果について「粒子が大きいほど、換気よりも重力による表面堆積の寄与が大きくなる」という傾向が定量的に裏付けられたと説明しています。
著者らは、クリーンルーム管理においては気流や換気回数(ACH)にばかり目が向きがちだが、5µm以上のマクロ粒子やMCPの相当割合は、そもそも空気中を漂う前に、あるいは漂った後に表面へ沈着していると指摘しています。この観点が抜け落ちると、「換気だけを強化すれば清浄度が保てる」という誤った対策に陥りかねないというのが著者らの見解です。実際に製品や工程に影響するのは、空気中の粒子濃度だけでなく、表面に付着した汚染(コンタミネーション)が再飛散したり、直接製品に接触したりするケースも多いためだと論文は述べています。
著者らによれば、クリーンルーム内を漂う粒子は、形も比重(重さの度合い)もさまざまです。パーティクルカウンター(粒子を数える装置)は、粒子そのものの形や重さを直接測っているわけではなく、粒子に光を当てたときに散る光の量から「同じ光の散り方をする、基準となる球形粒子に置き換えたら何µmの大きさに相当するか」を割り出しています。一方、粒子が実際にどれくらいの速さで沈むか(沈降速度)を考えるときには、これとは別に「水と同じくらいの重さ(比重1000kg/m³)の球に置き換えたら何µmに相当するか」という、沈み方に着目した別の物差し(等価空気力学径)が使われると説明されています。
論文では、この等価空気力学径をベースに、Stokes(ストークス)の沈降式と呼ばれる計算式を用いて粒子の沈降速度を算出したとされています。これは簡単に言えば、「粒子を下に引っ張る重力」と「空気が粒子の動きにブレーキをかける抵抗力」がつり合ったところで、粒子の落下速度が一定になる(それ以上速くならない)、という考え方に基づく計算です。大きく重い粒子ほど重力が勝ちやすいため速く沈み、逆に小さく軽い粒子ほど空気の抵抗を受けやすいため、ゆっくりとしか沈まない、という直感的にも分かりやすい関係が、この式から導かれます。
ただし、この基本の計算式がそのまま当てはまらないサイズの粒子が2種類あります。
1つ目は、径が約1.5µmより小さい、非常に微小な粒子です。空気中の分子は、他の分子とぶつかるまでの間に、平均して「平均自由行程」と呼ばれるごくわずかな距離(常温・常圧でおよそ0.068µm)だけ進みます。粒子がこの距離と同じくらいか、それより小さくなると、粒子の周りにぶつかってくる空気分子の数がまばらになり、粒子はいわば分子と分子の隙間をすり抜けるように動けるようになります。この結果、実際に粒子が受ける抵抗は、基本の計算式が想定するよりも小さくなります。この分だけ沈降速度を上乗せする補正が必要になり、これを「カニンガムの補正係数(Cunningham slip factor)」と呼びます。
2つ目は、逆に径が約75µmを超えるような、比較的大きく重い粒子です。この大きさになると落下速度も十分に速くなり、粒子の周りの空気の流れが乱れて渦を巻くようになります(車が高速で走ると背後に乱れた空気の流れができるのと似たイメージです)。この状態になると、空気の流れが乱れないことを前提とする基本の計算式では、実際よりも速い沈降速度が算出されてしまいます。そのため、このサイズ域では、乱れた空気の流れも考慮した、別の近似式が使われると論文は説明しています。

これらはあくまで各数式が表している考え方の要旨です。具体的な係数や記号を伴う数式そのものは元論文では図版(画像)として掲載されており、本記事のテキスト抽出では再現できていません。厳密な数式が必要な場合は、原著論文(下記出典)、または同様の手法を体系的に解説しているHinds著『Aerosol Technology』(Part3の参考文献リストに掲載)をご確認ください。
クリーンルーム内の人由来の粒子(皮膚・衣服由来のデトリタス、いわゆる脱落物・発塵物)については、Leider and Buncke による既存データをもとに、皮膚粒子の比重1100kg/m³、衣服に多いポリエステルの比重1380kg/m³という値を踏まえ、著者らは平均比重1200kg/m³を採用したとしています。
著者らは、ISO Class 8クリーンルームでの実験・理論計算により得られた沈降速度として、累積粒子径ごとに次の数値を報告しています(単位:cm/s)。
| 累積粒子径(µm) | 沈降速度(cm/s) |
| 0.3 | 0.003 |
| 0.5 | 0.006 |
| 5 | 0.29 |
| 10 | 0.91 |
| 25 | 4.2 |
| 40 | 9.1 |
| 50 | 13 |
| 100 | 41 |
論文によれば、粒子径が大きくなるほど沈降速度が急激に増大するとされています。次回Part2では、著者らがこの沈降速度データをもとに、実際に「換気」と「堆積」の寄与率をどのように計算したのか、その手法と結果を紹介します。
インテクノスでは、クリーンルーム運用における異物課題解決を幅広くサポートさせていただけます。ご関心をいただけましたらこちらからお気軽にご相談ください。
CRSビジネスユニット 三井 晃希
出典 Whyte W, Agricola K. Comparison of the removal of macroparticles and MCPs in cleanrooms by surface deposition and mechanical ventilation. Clean Air and Containment Review. 2018; Issue 35: 4-10.



