技術情報
2026.09.11
AIや高性能コンピューティングの普及に伴い、データセンターではサーバの高密度化・高発熱化が進み、従来の空冷だけでなく液冷システムの採用が注目されています。
液体は空気よりも効率よく熱を輸送できるため、高発熱のCPUやGPUを冷却する手段として有効です。
一方、液冷化によって新たに重要になるのが、冷却液や冷却回路のコンタミ(汚染)管理です。
液冷システムでは、単に適切な温度の冷却液を循環させればよいわけではありません。
冷却液中に粒子、腐食生成物、スケール、微生物などが発生・混入すると、流路の閉塞、圧力損失の増加、熱交換性能の低下などにつながる可能性があります。 そのため、液冷システムの安定運用には、水質管理だけでなく、冷却回路全体を対象としたコンタミ管理が重要になります。
ASHRAE TC 9.9が発行した「Water-Cooled Servers: Common Designs, Components, and Processes」では、データセンターの水冷システムについて、設備側のFWS(Facility Water System)と、IT機器側のTCS(Technology Cooling System)を区別して管理する考え方が示されています。
特にコンタミの影響を受けやすいのがTCSです。
CPUやGPUに取り付けられるコールドプレート内部には、冷却性能を高めるために非常に細かな流路が設けられています。
ASHRAEでは、コールドプレートの流路寸法の例として約50~500 µmを挙げています。
このような微細流路に比較的大きな粒子が流入すると、流路を部分的あるいは完全に塞ぐ可能性があります。
そのためASHRAEでは、最小流路に対しておおむね1/2~1/10程度の粒径を捕捉するフィルタを検討する考え方を示しています。
例えば最小流路が50 µmの場合、25~5 µm程度の粒子を対象としたフィルタリングが一つの目安になります。
つまり液冷データセンターでは、数十µm、場合によっては数µmレベルの粒子コンタミが、冷却性能や機器信頼性に影響する可能性があるということです。
冷却システムのコンタミ管理でもう一つ重要なのが、設備の立ち上げ時です。
新設された配管内部には、施工時に発生した金属粉、溶接・加工残渣、シール材、錆、砂、ほこりなどが残留する可能性があります。
こうした異物を十分に除去しないままコールドプレートを接続すると、運転開始直後から微細流路へ異物を送り込んでしまうことになります。
Open Compute Project(OCP)が公開しているTCS配管のプレコミッショニングに関するガイドラインでも、こうした問題を防ぐため、運転前の洗浄、フラッシング、ろ過が重視されています。
大きな異物を粗いフィルタで除去した後、より細かなフィルタへ段階的に切り替える考え方が示されており、設備を使用する前に冷却回路内部のコンタミを十分に除去することが重要とされています。
これは、一般的な油圧システムや精密機器で用いられる、「最初からきれいにし、その状態を維持する」というコンタミ管理の考え方と共通しています。

液冷システムで管理すべきコンタミは、固形粒子だけではありません。
ASHRAEやOCPの資料では、全浮遊物質(TSS)だけでなく、pH、導電率、溶解成分、金属イオン、微生物など、さまざまな項目を管理する考え方が示されています。
これらは互いに独立した問題ではありません。
例えば配管や熱交換器で腐食が発生すると、腐食生成物が粒子として冷却液中へ放出される可能性があります。スケールが形成されて剥離すれば、それも流路を閉塞させる異物になります。
また、微生物が増殖するとバイオフィルムが形成され、流量低下や熱伝達性能低下を引き起こす可能性があります。
そのため液冷システムでは、粒子、腐食、スケール、微生物、冷却液の化学的変化を一体的に捉えることが重要になります。
今後、高密度データセンターへの液冷システム導入が拡大すると、冷却設備についても単に「水質を定期的に分析する」という管理だけでは十分でなくなる可能性があります。
設備のライフサイクル全体を考えると、配管施工時の異物管理 → 洗浄・フラッシング → 初期清浄化 → フィルタリング → 運転中の粒子監視 → 腐食・水質・微生物管理 → フィルタ差圧や流量の監視という一連の管理が重要になります。
特に冷却液中の粒子を粒径別・個数別に把握することができれば、TSSや濁度だけでは把握しにくいコンタミ発生の変化を、より早い段階で検出できる可能性があります。
油圧機器や精密洗浄分野では、液中パーティクルカウンターを利用し、粒径別の粒子数からシステムの汚染状態を管理する方法が広く利用されています。
こうしたコンタミ管理技術は、今後データセンターの液冷システムにおいても、異常の早期検知や予防保全、コールドプレートの閉塞防止などに応用できる余地があります。
データセンターの液冷化が進むほど、冷却液は単なる「熱を運ぶ液体」ではなくなります。
冷却回路にどのようなコンタミが存在し、どのように発生し、どのように除去・監視するのか。
冷却システムのコンタミ管理は、液冷データセンターの性能と信頼性を支える重要な設備管理技術の一つになっていくと考えられます。
インテクノス・ジャパンは、液体の清浄化や汚染監視を支える製品・サービスを提供し、様々なシステムの生産性・信頼性の向上に寄与しております。お困り事がございました際は、こちらからお気軽にご相談ください。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―



