技術情報
2026.09.04
クリーンルームへ新しい製造装置を搬入した後、浮遊粒子数が増加し、それまで維持できていた清浄度要件を満たせなくなることがあります。
「搬入前に装置を拭いたのに、なぜ清浄度が下がったのか」と疑問に感じるかもしれません。しかし、装置搬入が清浄度へ与える影響は、表面に付着したほこりだけではありません。搬入作業そのもの、装置からの発塵、気流の変化など、複数の要因を分けて調べる必要があります。
新しい装置は、製造工場、倉庫、トラック、荷受け場所など、清浄度が管理されていない環境を通って搬入されます。外装が一見きれいでも、装置の底面、キャスター、フレームの隙間、配線部、ファン内部などには粒子が残っている可能性があります。
NASAのクリーンルーム運用事例では、搬入する設備を一度ステージング区域に置き、外観検査、粗洗浄、包装の除去、最終洗浄、搬入後の再検査を段階的に実施しています。二重包装された物品についても、外側の包装と内側の包装を異なる区域で取り外しています。
重要なのは、「装置を拭いたか」ではなく、「どこで、どの包装を外し、どの面を、どの基準まで洗浄したか」を管理することです。
大型装置の搬入では、通常より長時間にわたって扉を開放します。作業者や運搬台車の往来も増えるため、前室や一般区域から粒子が入りやすくなります。
実物大のクリーンルームで行われた研究では、扉の開閉と人の移動によって、前室側の粒子がクリーンルーム内へ侵入することが確認されています。また、扉を通過する気流が少ない条件ほど影響が大きくなりました。
搬入経路を事前に清掃する、開扉時間を短くする、作業人数を制限する、搬入後に十分な回復時間を設けるといった対策が必要です。
据付後に清浄度が回復しても、装置を稼働させると粒子数が上がる場合は、装置自身の発塵が疑われます。
発塵源になりやすいのは、ロボットの関節、ベルト、軸受、キャスター、ケーブルベア、摺動部、冷却ファンなどです。クリーンロボットの研究では、関節部の構造や内部排気の有無によって粒子発生量が大きく変わることが示されています。
ISO 14644-14は、機械や工程装置、工具などについて、空気中の粒子濃度を基準にクリーンルームへの適合性を評価する方法を定めています。装置のカタログに「クリーンルーム対応」と書かれているだけで判断せず、対象粒径、運転条件、測定位置、適合クラスを確認することが大切です。
大型装置は、クリーンルーム内の気流に対する新たな障害物になります。装置の上部や背面に空気の滞留域ができたり、装置からの排気が下降流を乱したりすると、発生した粒子が速やかに排出されなくなります。
この問題は、室内全体の平均粒子数だけでは見つけにくいことがあります。装置周辺、製品の開放位置、作業者の立ち位置、排気口付近などで測定し、搬入前後の分布を比較する必要があります。 スモークによる気流可視化や回復試験を組み合わせると、装置によって生じた滞留や逆流を確認しやすくなります。EU GMP Annex 1やWHOの無菌医薬品GMPでも、適格性評価項目として気流試験、気流可視化、差圧確認、回復試験などが挙げられています。
清浄度の問題は粒子だけではありません。装置に使用される樹脂、接着剤、塗料、潤滑剤、シール材などから、揮発性・半揮発性物質が放出されることがあります。 半導体クリーンルームの調査では、シール材などが空中分子汚染の発生源になり得ることが報告されています。粒子測定で異常がなくても、製品表面の曇り、膜形成、接着不良などが起きる場合は、アウトガスを含む化学汚染も検討すべきです。
装置搬入による影響を早期に把握するには、少なくとも次の状態でデータを比較します。
浮遊粒子数だけでなく、測定位置、装置の運転状態、扉の開閉、作業人数、差圧、風速、温湿度も記録します。異常が発生した時刻と搬入作業の記録を照合できれば、原因を絞り込みやすくなります。
新装置の搬入後に清浄度が低下した場合、追加清掃だけで解決しようとすると、本当の原因を見逃す可能性があります。
持込み汚染、開扉に伴う粒子侵入、装置自身の発塵、気流の乱れ、アウトガスを順番に切り分けることが重要です。搬入を単なる物流作業ではなく、クリーンルームの状態を変更する作業として扱い、洗浄計画、搬入経路、測定計画、据付後の再評価まで事前に決めておくことが、清浄度の早期回復につながります。
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PPSビジネスユニット 齋藤圭介




