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ギアボックスの汚染と機械故障

多くの機械要素の中でも、軸受・歯車・シールは故障への影響が大きく、それらを組み合わせて動力伝達のコアを担うギアボックスに対しては、その健全性を正しく維持管理することが重要です。

ギアボックスに起因する機械故障は、主に潤滑不良(油種不適合、油量・給油間隔不足、油劣化)、組付不良(過大荷重、芯出し不良、据え付け不良)、及び汚染(固形粒子や水分の混入)によって引き起こされると言われています。

本稿では、機械故障の主要因の一つである「汚染」に着目し、その発生メカニズムや予防策について述べます。

目次

  1. 汚染とは何か/ギアボックスにおける具体的因子
  2. 汚染と故障の因果関係
  3. 汚染低減が故障予防に果たす役割と運用上のポイント
  4. まとめ

1. 汚染とは何か/ギアボックスにおける具体的因子

ギアボックス内部で「汚染」と言われるとき、主に次のような外的・内的因子が挙げられます。

  • 粒子(砂、粉じん、金属摩耗粉、環境異物など): 硬質粒子が潤滑油中、または歯面/軸受界面に入り込みます。
  • 水分(湿潤空気の侵入、結露、冷却水/洗浄水の混入など): 潤滑油またはギアボックス内の空気に水分が含まれます。
  • 油劣化/酸化生成物(スラッジ、ワニス、分解生成物): 潤滑油自体の性状が変化し、油膜性能が低下します。
  • 空気/ガスの混入(エアレーション、泡立ち): 潤滑油膜が破壊されやすくなる要因です。
  • 保全作業や補給時の混入(補給油中の粒子、水の持ち込み、カップリング・開口部からの侵入): 点検/補給/整備時が外的因子の大きな侵入経路となります。

ギアボックスでは、歯車・軸受・シール・ハウジング内部空間が一体となって動作しており、これらの汚染因子が潤滑・材質・構造に及ぼす影響から機械故障を誘発します。

2. 汚染と故障の因果関係

汚染がどのようにして機械故障に至る要素不良を生じるかを以下に整理します。

① 潤滑膜の破壊・弱化

潤滑油の目的は、歯車の歯面当たり、軸受転動部、シャフト回転部において、金属同士の直接接触を避ける油膜を形成し、摩擦・摩耗・疲労を遅らせることにあります。

そこに硬質粒子が介在すると、荷重部分の油膜を破壊して金属表面に直接的な接触を生じさせ、結果として表面に圧痕・剥離・疲労クラックが発生します。

水分が混入すると、油膜の粘度・圧力粘度係数・流動特性が変化し、油膜厚の低下や乳化による油膜破断を招きます。水分が増加すると潤滑膜強度が大幅に低下することが指摘されています。

酸化・添加剤枯渇・スラッジ形成により、油膜支持性能が劣化し、さらに摩耗粉(内部発生の汚染)が増加します。

このように、潤滑油膜が健全でなくなることで、歯車や軸受の摩耗・疲労・破損までの時間が急速に短縮されます。

② 摩耗・疲労の促進

潤滑油膜が弱まると、歯車の歯面では金属と金属の接触、または硬質粒子のかみ込みによって微小クラック(マイクロピッティング)、表面剥離、ピッチング(疲労剥離)などを誘発し、これが進行すると歯元破断、歯面剥がれにつながります。

軸受・転動体部では、粒子混入による磨耗・えぐれ(スコーリング)・転動疲労が早期に起こり、支持耐力・剛性低下を招きます。

水分・腐食粒子が関与すると、歯車・軸受内部での疲労クラックへの進展が早まり、いわゆるホワイトエッチングクラックを誘発する場合もあるとされます。

③ 熱・摩擦・変形の悪循環

汚染によって摩擦増大・油膜減少・金属同士の衝突が起きると、発熱が増加 → 油の粘度変化・酸化促進 → 油膜性能の低下につながります。

そして、歯車・軸受部材の温度上昇によりクリアランス変化・変形が大きくなり、当たり変化・バックラッシ異常・騒音の原因となります。

さらに、摩耗粉・スラッジがさらに油を汚染し、摩耗・疲労を促進する汚染の増殖サイクル(悪循環)に入ります。

④ シール・呼吸系からの侵入と作業・環境要因

ギアボックス特有の汚染侵入ルート・構造要因として、以下が挙げられます。

  • シール(シャフトシール/ハウジングシール)が劣化/設計不適切だと、外部粉じん/水分が侵入しやすく、また内部負荷変動や振動によりシールクリアランスがずれやすくなります。
  • ブリーザ(通気孔)やレベルゲージ、給油口、ホース接続部が粒子/水分の侵入口となります。
  • 補給/点検/整備時には油缶、給油器、じょうごなどからの混入も無視できません。特に給油時のレベルチェックや補填作業が汚染の大きな入り口になると指摘されています。
  • 環境条件(屋外機械/高温/粉じん/湿度高)も汚染侵入を加速させます。例えば湿度高/温度変化が大きいと結露→水分侵入につながりやすいとされます。

このように、構造・作業・環境が汚染を引き寄せ、その汚染が潤滑・材質・構造に影響を与え、故障に至るという連鎖が存在します。

3. 汚染低減が故障予防に果たす役割と運用上のポイント

汚染対策を適切に実施することで、故障リスクを大きく低減させることが可能です。以下に主な役割と運用上のポイントを整理します。

役割

  • 潤滑油膜の健全性維持: 油膜破壊を防ぐことで、歯車や軸受の摩耗/疲労を抑制します。
  • 寿命延伸: 汚染を防ぎ、摩耗/疲労を抑えることで、部品交換やメンテナンスの頻度を下げられます。
  • 安定稼働: 油温上昇、振動増大、騒音といった異常発生が抑えられ、予知保全の適用がしやすくなります。
  • コスト削減: 汚染の侵入防止は、後から除去/修理するよりもコストが低いとされます。具体的には、除去よりも侵入防止の方が1/10のコストで済む場合もあると言われています。

運用上のポイント

  • 清浄度目標の設定: ギアボックスにおける油の清浄度(ISO 4406等級)を明確にして運用します。
  • オイル監視: 粘度、水分、酸価、粒子数などを監視し、汚染度上昇や劣化の早期検知に繋げます。
  • 設備構造の改善: ブリーザ、シール、給油口など汚染侵入経路の設計を見直します。除湿剤付きブリーザ、ラビリンスシールへの変更などが挙げられます。
  • 補給/整備手順の厳格化: 油補給時の清浄な容器/じょうごの使用、点検口の保護、開口作業時の清掃手順などに着目し、作業が汚染の起点となることを防ぎます。
  • 環境/運転条件の管理: 粉じん、湿気、温度サイクルが激しい環境では特に侵入リスクが高いため、外部環境の管理や運転条件に応じたカバーなどを併用します。

4. まとめ

機械故障の予防を考える際、「汚染」は状況を悪化させる極めて重要な因子であり、潤滑・構造・運用を通じて歯車・軸受・潤滑油自体に深刻な影響を及ぼします。

潤滑油膜が健全であれば、摩耗・疲労・破損は抑えられますが、汚染によってその膜が破られ、摩擦・熱・変形・破壊へと至るルートが明確に存在するのです。

特にギアボックスのような高荷重・高速・精密な機械要素では、汚染制御を疎かにすると寿命低下・ダウンタイム増加・修理コスト増加に直結します。

産業機械の保全・運用設計においては、汚染侵入の経路特定と予防、オイル清浄度の監視、汚染状態の回復手段をキーファクターと捉え、対策を検討することが重要です。

インテクノス・ジャパンは、日本及びアジアの産業界における清浄度管理の技術提供に軸足を置き、30年以上にわたって顧客企業の機械保全を支援してきました。オイル清浄度の監視や制御の改善をご検討の際は、是非一度お声掛け頂ければ幸いです。経験豊富な専門員が最適なソリューションをご案内いたします。

高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―

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