
技術情報
2025.10.10
フラックス残渣は、はんだ付け後の電子基板に必然的に残る物質であり、種類や組成によっては電気的/化学的な問題を引き起こす可能性があります。
代表的な問題は、イオン性残渣による導電/腐食リスク、絶縁抵抗の低下、コンフォーマルコーティングの付着不良、そして外観不良などです。
そのため、製品の信頼性要求や後工程に応じて、洗浄の必要性や方法を決定することが重要となります。
フラックスは大きくロジン系、活性タイプ、そして無洗浄タイプなどに分けられます。
ロジン系は従来型であり、水系またはアルカリ系の洗浄剤を用いたプロセスで除去しやすい特徴があります。
活性タイプは残渣に腐食性のイオンを残す可能性が高く、高信頼性が要求される用途では洗浄が必須とされています。
一方、無洗浄タイプは残渣が安定しており基本的に洗浄不要と設計されていますが、環境条件やコンフォーマルコーティングとの相性によっては洗浄が必要になる場合があります。
水系スプレー洗浄:
水に界面活性剤やアルカリ性添加剤を加え、噴射のエネルギーで残渣を除去する方式です。温度を上げることで効率が高まり、一般的に広く用いられています。
半水系/溶媒置換洗浄:
有機溶媒で油性成分を溶かし、その後に水でリンスする方法です。有機溶媒の使用量を抑えられる点が特徴です。
有機溶剤系洗浄:
揮発性の溶媒を用いた洗浄方式であり、短時間で高い効果を得られます。ただし、作業者の安全や環境規制に配慮する必要があります。
超音波洗浄:
超音波のキャビテーション効果で残渣を剥離させる方式です。微細部や狭ピッチ部品に有効ですが、装置条件によっては部品を傷めるリスクがあるため、プロセス設計が重要です。
フラックス残渣は有機樹脂や酸性成分を含んでいるため、洗浄では以下のような化学的作用を利用します。
・アルカリ剤による鹸化反応により樹脂成分を水に可溶化する。
・界面活性剤によって油性成分を乳化し、水と混和可能にする。
・極性溶媒によって樹脂や有機物を直接溶解する。
このように残渣の化学組成に応じて適切な洗浄剤を選択することが求められます。
洗浄装置にはインラインスプレー型、バッチ型、超音波バス、蒸気洗浄装置などがあります。
いずれの場合も、以下のプロセスパラメータが重要です。
・洗浄液の温度と濃度
・噴射圧力や流量
・接触時間
・リンスに使用する純水の品質
・乾燥方式(エアブロー、加熱、真空など)
特に、噴射のエネルギーとリンスの流路設計が、部品下や狭隙の残渣除去に大きく影響します。
洗浄の合否判定は定量的/定性的な評価を組み合わせておこないます。
イオン性残渣測定:
溶媒抽出による抵抗率測定やイオンクロマトグラフィにより、残留イオンを定量化します。
絶縁抵抗試験(SIR):
高湿度/高温条件下で絶縁破壊が起きないかを確認します。
外観検査:
光学顕微鏡や検査装置を用い、残渣の有無を確認します。
低スタンドオフ部品下の残渣:
洗浄液が入り込めず残渣が残ることがあります。対策としては、基板設計段階での流路確保や、洗浄の流れ方向の最適化が有効です。
無洗浄残渣の白化:
一部の無洗浄フラックスは洗浄時に白色残渣を生じることがあります。この場合、適切な洗浄剤選択や工程条件の最適化が必要です。
コンフォーマルコーティング不良:
残渣がコーティングの密着を妨げ、ピンホールやブリッジを生じることがあります。そのため、コーティング前の基板洗浄は極めて重要です。
水系洗浄は安全性が高く環境負荷も比較的低いですが、廃液には溶解したイオンや有機物が含まれるため適切な処理が必要です。有機溶剤系の場合はVOC規制や作業環境安全に注意する必要があります。
・信頼性や外観基準、コーティング要否などを明確化する。
・実基板を用いて複数の洗浄剤/条件で試験をおこない、最適なプロセスを選ぶ。
・選定した条件を実機でパイロット検証し、再現性と合否判定を確認する。
・規格や社内基準に基づいて合否判定基準を設定し、運用に反映する。
フラックス洗浄は、単に残渣を取り除く工程ではなく、製品の長期信頼性や後工程の安定性を確保するための重要な要素です。
洗浄の要否はフラックスの種類や用途環境に依存し、洗浄方式は化学的作用や物理的エネルギーの組み合わせで最適化することが求められます。
また、洗浄後の評価と検証を徹底することで、より確実な品質保証につながります。
インテクノスのコンサルティングは、洗浄工程において製品の品質/信頼性にかかわる汚染リスクのアセスメントから制御までを総合的にサポートし、これまでに多くの精密製造を支えてきました。
工程の立ち上げや改善をご検討の際には、是非一度お声掛け下さいませ。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―