技術情報
2026.01.30
産業機械や油圧設備の運用において廃油が増える背景には、油そのものの「寿命」よりも、油中に混入・生成される汚染物質が原因となって性能が維持できなくなる、という構造があります。廃油を削減するには、油を早期交換する前に、油の清浄度を回復させて再使用できる状態を維持することが重要です。オイル清浄化は、単にフィルタを設置・交換する行為ではなく、油に混ざる粒子・水分・酸化生成物などを系統的に除去し、設備トラブルと油劣化の連鎖を断ち切る考え方です。
油圧作動油の劣化や不調の引き金になりやすいのは、固形粒子の増加です。摩耗粉や加工くず、外部から侵入した粉塵が油中に増えると、ポンプ・バルブ・シリンダなどの摺動部で摩耗が進み、内部リークや圧力低下が起こりやすくなります。さらに摩耗粉が摩耗を呼ぶ悪循環が起きるため、結果として油の交換が前倒しになり、廃油が増えます。
また、油中の水分も廃油増加に直結します。油中の水は、遊離水として分離して見える場合だけでなく、乳化して白濁する状態、さらに見た目では分からない溶存水として存在する状態があります。水分が多いと腐食が進むだけでなく、添加剤の消耗や酸化の促進にもつながり、油の寿命が短くなります。さらにサーボ弁など精密な制御部では、水分や微細な汚れが作動不良につながりやすく、突発停止や不良率増加の原因になります。
さらに、粒子数や水分を下げても改善しない不調として、酸化生成物による問題があります。油が熱・空気・金属触媒などの影響で酸化すると、スラッジやワニスと呼ばれる微細な劣化生成物が生じます。これらはフィルタで捕捉しにくい大きさや性質を持つことがあり、バルブの固着、応答遅れ、微小オリフィスの閉塞などを引き起こします。その結果、「油が汚いから交換する」のではなく、「制御が安定しないから交換する」という形で廃油が増える場合があります。
このように、清浄化で狙うべき対象は、粒子・水分・劣化生成物の3つを中心に整理でき、これらを継続的に減らすことで油の交換頻度を抑え、廃油削減につなげられます。
(A) オフライン濾過(キドニーループ):
油圧回路とは別に補助循環させるオフライン濾過は、主回路の圧力や流量変動に影響されず、適切な流量で安定的に濾過できる方式です。主回路のフィルタだけでは取り切れない汚れを継続的に回収し、清浄度を一定範囲に保つことが可能になります。
油を交換するのではなく、油を「使いながら清浄化して保つ」運用にすることで、交換周期の延伸が狙えます。特に、汚れの蓄積が交換判断に直結している設備では、オフライン濾過の効果が出やすいです。
また、補給油・交換油を投入する前に濾過する運用を組み込むと、初期汚染の持ち込みを減らせます。新油であっても輸送や保管、注油作業の過程で汚れが混入している場合があるため、この工程を標準化することは廃油削減の基礎になります。
(B) 真空脱水(加温+減圧):
油中の水分は、遊離水だけでなく乳化水や溶存水として存在するため、通常の濾過では十分に除去できません。そこで有効なのが、油を加温し、減圧環境下で薄膜化して水分を蒸発除去する真空脱水です。
この方式では水分だけでなく溶存ガスの低減も期待でき、泡立ちやキャビテーションの抑制にもつながります。水分が原因で添加剤が急速に消耗する設備や、湿度変動が大きい環境で稼働する設備では、油交換頻度を抑える効果が出やすいです。
(C) 遠心分離:
遠心力によって油と水、固形分の比重差を利用して分離し、連続的に汚染物を排出する方式です。遊離水が混入しやすい設備や、短時間で大量の油を処理したい場合に適しています。
ただし、油種や粘度、温度条件によって分離効率が変わるため、現場条件に合わせた処理能力の見積もりや、場合によっては他の分離技術との組合せを検討する必要があります。
(D) 微細劣化生成物(ワニス等)への対策:
油の酸化で生じるワニスやスラッジ、それらの前駆体は、固形粒子による汚れとは別の問題を引き起こします。フィルタは付いているけれど制御が安定しない、バルブが渋い、応答が遅れるといった症状は、この領域が関与していることがあります。
この対策として、微細な汚染物質を捕集しやすい方式をオフライン循環に組み込み、油中の劣化生成物を減らす運用が考えられます。通常の粒子・水分対策だけで改善しない場合に検討価値が高いです。
(E) 侵入抑制(通気部の除湿・除塵):
清浄化で除去する以前に、油圧タンクの吸排気によって湿気や粉塵が侵入することがあります。ここが放置されると、清浄化を強化しても汚れが補給され続けるため、交換周期は伸びにくくなります。
吸気側での侵入を抑える通気フィルタや乾燥材を用いると、侵入起因の汚染を大きく減らせます。設備改造が小さく効果が出やすい一方、乾燥材の交換時期や目詰まりの管理が必要です。
廃油削減を目的に清浄化を導入する場合、油交換の判断基準を「期間」中心から「状態」中心へ寄せることが重要です。油の状態指標としては、粒子数(ISO 4406清浄度コード)と水分量(ppmや飽和度)が特に管理しやすく、清浄化の成果を数値で追いやすいです。
これらを設備ごとに目標値として設定し、清浄化装置の運転時間、フィルタ交換履歴、停止トラブルの発生状況と合わせて見える化すると、交換周期延伸の根拠を作れます。加えて、油温が高い設備、湿度の高い環境、タンク容量に対して負荷変動が大きい設備では汚染の進み方が早いため、対策の優先度が上がります。
方式選定は「粒子」「水分」「劣化生成物」「侵入」のどれが支配的かで整理すると対策順の決定で失敗しにくいです。粒子が主因ならオフライン濾過、水分が主因なら脱水系、遊離水が多いなら分離系、ワニス傾向が強いなら微細劣化生成物への対策、侵入が主因なら通気部対策という順で組み立てるのが現実的です。
清浄化を運用に組み込むことで期待できる成果は、廃油削減だけにとどまりません。突発停止の削減、部品寿命の延伸、保全工数の低減につながる可能性があります。このように油を交換して改善する運転から、油を「管理して長く使う」運転へ移行できれば、廃油処理費、油の調達コスト、保全費用、停止損失の同時低減による経済効果を期待できます。
当社では、作動油・潤滑油・燃料油などの清浄度を数値化する国際規格機材の提供とともに、オイル清浄化の改善サポートもおこなっております。お困り事や課題がおありの際は、お気軽にご相談下さい。経験豊富な専門員がお客様に最適な解決策を提案いたします。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―


