技術情報
2026.11.06
クリーンルームの清浄度は、空調設備やフィルターの性能だけで決まるものではありません。
入退室、更衣、清掃、資材搬入、装置の保守、作業者の動きなど、日々の運用も大きく影響します。
そこで問題になりやすいのが、清浄度管理の「属人化」です。
「ベテランなら異常に気づける」「担当者によって清掃方法が違う」「粒子数が増えたときの対応が人によって変わる」といった状態では、担当者の不在や交代によって管理品質が低下する可能性があります。清浄度を安定させるには、個人の経験を否定するのではなく、その経験を組織で再現できる仕組みに変えることが重要です。
属人化対策として、最初に作業手順書を整備する企業は多いでしょう。しかし、「床を清掃する」「装置を拭き上げる」「異常があれば責任者へ報告する」といった表現だけでは、作業者による解釈の差が残ります。
例えば清掃作業では、使用するワイパーや洗浄剤だけでなく、拭く方向、重ね幅、交換のタイミング、清掃範囲、作業順序まで決める必要があります。粒子測定でも、測定位置、高さ、時間、設備の稼働状態、在室人数が異なれば、単純に結果を比較できません。
重要なのは、作業内容だけでなく「条件」と「判定基準」をそろえることです。 国際的なクリーンルーム運用規格でも、人員管理、教育、入退室、資材搬入、清掃、保守、モニタリングを個別に管理するのではなく、一つの運用管理プログラムとして体系化する考え方が示されています。
熟練者は、手の動かし方や装置との距離、気流を乱しやすい動作を経験的に理解しています。しかし、その感覚を言葉だけで新人に伝えることは簡単ではありません。
海外の研究では、煙を使ってクリーンベンチ内や清浄区域の気流を可視化し、その映像を作業者教育に使用した事例が報告されています。手の位置や物品の置き方によって気流が遮られる様子を映像で確認することで、注意点を具体的に共有できます。
この方法は、一般的なクリーンルームにも応用できます。例えば、正しい清掃方法と不適切な方法、資材搬入時のワイピング、エアシャワー使用後の動き、装置周辺で避けるべき作業などを動画や写真で残します。さらに「良い例」「悪い例」と、その理由をセットにすれば、熟練者の暗黙知を共通教材へ変えられます。
教育を実施しても、受講記録だけでは正しく作業できることの証明にはなりません。清浄度管理では、理解度テストと実技評価を組み合わせることが望ましいと考えられます。
海外では、UV蛍光剤を用いて手洗いや消毒の状態を可視化し、作業者の技能を客観的に評価する研究も行われています。同様の考え方で、清掃範囲の拭き残し確認、更衣手順、粒子測定器の取り扱い、資材の搬入手順などを評価できます。 評価項目、合格基準、再教育の条件を事前に決めておけば、評価者の感覚による判定差も抑えられます。また、一度合格したら終わりではなく、定期的な再評価や、手順・設備を変更した後の再認定も必要です。
粒子数や微生物の測定結果も、担当者の経験だけで判断すると属人化しやすくなります。
単発の基準超過だけでなく、通常値からの緩やかな上昇、特定の時間帯や作業後に繰り返される変動、警報値への到達頻度などを継続的に確認する必要があります。海外研究でも、環境モニタリングデータを統計的に傾向管理し、正常状態から外れ始めた兆候を早期に検出する方法が提案されています。
そのためには、測定条件を統一し、データを時系列で保存することが前提となります。さらに、警報値や処置値を超えた場合の報告先、工程を継続できる条件、再清掃や再測定の方法、原因調査の責任者まで決めておきます。 「数値を測る」だけでなく、「数値を見て誰が何をするか」まで設計することが、属人化防止につながります。
清浄度管理の属人化を防ぐとは、作業者の判断をすべて排除することではありません。経験者が持つ知識を、手順、映像、教育、データ、判定基準として組織に残すことです。
まずは、担当者によって方法や判断が変わっている作業を洗い出します。次に、作業条件と合否基準を明確にし、実技認定と定期的な傾向レビューを組み合わせます。必要に応じて、連続監視や自動記録、閉鎖化、自動化も検討します。
ベテランがいなければ維持できないクリーンルームから、誰が担当しても一定水準を再現できるクリーンルームへ移行することが大切です。清浄度を安定させる鍵は、個人の注意力だけに頼るのではなく、異常に気づき、共有し、対応できる仕組みをつくることにあります。
インテクノス・ジャパンは清浄度管理手順の確立から順守の実証までの仕組作りを包括的にサポートさせていただけます。清浄度管理の属人化に課題感をお持ちの際は、こちらのフォームよりどうぞお気兼ねなくご相談ください。
PPSビジネスユニット 齋藤圭介




