
技術情報
2025.05.26
クリーンルームは、微粒子や微生物などの汚染物質を排除し、製品や研究の品質・安全性を確保するための制御された環境です。ISO 14644シリーズをはじめとする国際規格に基づき、医薬品、半導体、化粧品、航空宇宙、車載機器など多岐にわたる産業で活用されています。
本稿では、一般的なクリーンルームの概要と海外のメンテナンス事例について、お話しします。
クリーンルームとは、空気中の微粒子濃度、温度、湿度、気流、圧力などの環境要因を厳密に制御し、製品や研究対象を外部からの汚染から守るための空間です。このような環境は、製品の品質向上、歩留まりの改善、製造コストの削減、規制遵守などの目的で設計・運用されます。
ISO 14644-1:空気清浄度の分類
ISO 14644-1は、クリーンルーム内の空気中の粒子濃度に基づいて、清浄度をISOクラス1から9まで分類します。例えば、ISOクラス5では、0.5µm以上の粒子が1立方メートルあたり3,520個以下である必要があります。この規格は、従来の米国連邦規格(Fed.Std-209E)に代わる国際標準として広く採用されています。
ISO 14698:バイオ汚染管理
ISO 14698は、クリーンルームにおける微生物汚染の制御に関する国際規格で、以下の2部構成となっています。
ISO 14698-1:バイオ汚染制御の一般原則と方法
ISO 14698-2:バイオ汚染のデータの評価と解釈
空気清浄化システム
クリーンルームでは、HEPA(High Efficiency Particulate Air filter)フィルターやULPA(Ultra Low penetration Particulate Air filter)フィルターを用いて、空気中の微粒子を除去します。これらのフィルターは、0.3µm以上の粒子を99.97%以上の効率で除去する能力を持ちます。
気流制御
クリーンルーム内の気流は、主に以下の2種類に分類されます。
層流(Laminar Flow):一方向に均一な速度で空気を流す方式で、ISOクラス5以下の高い清浄度が求められる環境で使用されます。
乱流(Turbulent Flow):空気を多方向に拡散させる方式で、比較的清浄度の要求が低い環境で採用されます。
換気回数(ACH)
クリーンルームの設計では、1時間あたりの換気回数(ACH:Air Changes per Hour)が重要な指標となります。例えば、ISOクラス8のクリーンルームでは、1時間あたり20回以上の換気が推奨されています。
ファンフィルターユニット(FFU)
FFUは、クリーンルームの天井や床に設置され、HEPAまたはULPAフィルターを通じて清浄な空気を供給する装置です。これにより、クリーンルーム内の空気清浄度を維持します。
エアシャワー
エアシャワーは、クリーンルームへの入室前に人や物品に付着した微粒子を高圧の清浄空気で除去するための装置です。
アイソレーターおよびバリアシステム(RABS)
アイソレーターおよびバリアシステムは、外部環境と作業空間を物理的および空気力学的に隔離する装置で、特に無菌製造プロセスで使用されます。
日常メンテナンス
日々の点検と清掃は、クリーンルームの基本的な清浄度を維持するための第一歩です。
環境パラメータの監視:温度、湿度、差圧を記録し、規定値内に収まっていることを確認します。
出入口の点検:エアロックやパススルー、ドアの密閉性に問題がないことを確認します。
気流システムの点検:HEPA/ULPAフィルターの正常動作を確認し、設計通りの気流速度と方向を維持します。
表面の清掃:作業台、壁、床などの表面を認可された手順で清掃し、特にドアノブや制御パネルなどの高頻度接触部位に注意を払います。
消耗品の管理:清掃用品や手袋などの在庫を確認し、必要に応じて補充・廃棄を行います。
週次メンテナンス
週に一度、より徹底的な清掃と機器の点検を行い、日常作業では見落としがちな問題を早期に発見します。
機器の点検:設備の摩耗や損傷をチェックし、監視装置やセンサーの点検を行います。
警報システムのテスト:気流、圧力、粒子数に関する警報が正常に作動するかを確認し、異常があれば対処します。
徹底的な清掃:天井、照明器具、通気口などを清掃し、クリーンルーム専用の洗浄剤やモップを使用して床を清掃します。
月次メンテナンス
月に一度、システム全体の詳細なチェックと性能評価を実施し、クリーンルームの基準を維持します。
エアフィルターの性能試験:DOP(分散油粒子)やPAO(ポリアルファオレフィン)テストを実施し、HEPA/ULPAフィルターの効率を確認します。
クリーンルーム用衣類の点検:再利用可能な衣類が適切に洗浄され、損傷がないかを確認し、基準を満たさないものは交換します。
粒子数の監視:詳細な粒子数分析を行い、ISO基準などへの適合性を確認し、異常があれば対策を講じます。
ログのレビュー:清掃、メンテナンス、環境監視の記録を監査し、未実施の作業や不整合がないかを確認します。
四半期メンテナンス
3か月ごとに、クリーンルームの運用上の健全性を確保するための包括的なテストと検証を行います。
差圧のテスト:クリーンルーム内のゾーン間での圧力差が仕様通りであることを確認します。
構造の点検:ひび割れ、塗装の剥がれなどの構造的な問題がないかを確認し、必要に応じて修復やシーリングを行います。
機器の検証:重要な機器に対して運用適格性テストを実施し、必要に応じて校正証明書を更新します。
年次メンテナンス
年に一度、クリーンルーム全体の包括的な検証と必要なアップグレードを実施し、最適な状態を維持します。
フィルターの交換:メーカーの推奨に従い、HEPA/ULPAフィルターを交換します。
包括的な検証テスト:気流、粒子数、環境パラメータを含む完全なクリーンルーム認証を実施し、規制要件に応じて認証を更新します。
メンテナンスプロトコルの見直し:現在のメンテナンス計画の有効性を評価し、新しい技術や規制に基づいてチェックリストやスケジュールを更新します。
クリーンルームは、製品を汚染から保護するために、さまざまな産業で不可欠な存在となっています。適切な設計・運用とメンテナンスは、クリーンルームの性能を維持し、製品の信頼性と安全性を高めることに寄与します。
高木 篤 / コンサルティングTOPチーム ― TOBIRA ―